起業時に必要な費用を自己資金だけでまかなえるケースはごくまれです。多くの場合は、何らかの方法で資金調達することになるでしょう。今回は起業時の資金調達方法をカテゴリーに分けてご紹介します。起業の資金工面にお困りの方や、円滑な事業スタートのために今以上の資金が必要な方は参考にしてください。
銀行融資を受ける
銀行からの融資は、起業時の代表的な資金調達方法です。銀行融資といっても種類はさまざま。以下に代表的な銀行融資をご紹介します。
1. プロパー融資
プロパー融資とは、信用保証協会による保証なしで貸付を行う融資です。通常、銀行は債務者が返済困難な状態に陥った場合のリスクを鑑み、返済を代行する信用保証協会による保証のもと融資を行います。一方、プロパー融資ではこの保証を付けず、銀行が直接リスクを負います。
2. ビジネスローン
近年、各銀行で中小企業を対象とした無担保ローンが提供されています。銀行によって名称は違うものの、一般的には「ビジネスローン」と総称されています。商品ごとに細かな差異はありますが、共通しているのは担保・保証人なしで融資が受けられること、審査スピードが速いこと、金利が通常の銀行融資よりも高めに設定されていることです。
3. 信用保証協会付融資
銀行との信頼関係が構築されていなければ、プロパー融資を受けることは困難です。ベンチャー企業、中小・零細企業の多くは、信用保証協会からの保証付きで融資を受けています。信用保証協会の審査を通過すると、銀行からの融資においては信用保証協会が「保証人」として機能します。
4. 不動産担保融資
所有している不動産を担保に入れて、融資を受けます。この形態では、高額の融資を受けられることや、金利が低いことがメリットとして挙げられます。物件購入時に必要な融資を受ける際に、その物件自体を担保とする方法も一般的です。
補助金・助成金を利用する
銀行からの融資は、当然ながら返済を行うのが前提です。一方で、原則として返済不要な補助金・助成金も存在しており、起業家に活用されています。起業家に利用されることが多いのは下記のような補助金・助成金です。
ここでの最大の注意点は、これらのお金は利用した、使用した後に着金する類のお金であるということです。したがって、一時的には自分でその分を用意するか、金融機関から借り入れるなどの対応も必要です。
5. 経済産業省系の補助金
経済産業省は起業件数の増加、地域活性化、中小企業の支援といった目的のもとに、いくつかの補助金を提供しています。創業時の経費を助成してくれる「創業補助金(創業・第二創業促進補助金)」、資金援助と同時に商工会議所の助言も受けられる「小規模事業者持続化補助金」、ものづくりに従事している中小企業を支援する「ものづくり補助金」など種類はさまざま。採択率は決して高くありませんが、資金援助を受けられれば起業が大幅にスムーズになるはずです。
6. 厚生労働省系の助成金
厚生労働省からは雇用の促進、労働者の能力向上などを目的として助成金が提供されています。補助金とは違い、設定された要件にあてはまりさえすれば応募数に関係なく獲得できるのが助成金の特徴です。厚生労働省の助成金は、「トライアル雇用奨励金」「キャリアアップ助成金」など雇用に焦点が当てられています。従業員を雇い入れる予定があるならば、内容を確認しておくとよいでしょう。
7. 自治体独自の補助金・助成金
各自治体が地域振興を目的として独自で補助金・助成金を展開しているケースは少なくありません。家賃補助、信用保証料補助など、バリエーションは市区町村によって異なります。自治体によっては目立った補助金・助成金を提供していない場合もありますが、あらかじめチェックしておいて損はないでしょう。
8. 大手企業、政府系金融機関、各種財団などの補助金・助成金
数は多くないものの、大手企業、政府系金融機関、各種の財団が起業家に対して補助金・助成金を展開しています。審査通過のためには、将来性を感じさせる明確なビジネスプランの提示が必要なため、採択のハードルは極めて高いようです。一方で、ビジネスプランに自信がある起業家にとっては大きなチャンスとも言えます。
その他の方法で創業者が個人借入をする
銀行は起業家への融資に関しては基本的に慎重な姿勢を保っています。補助金・助成金は魅力的ですが、採択のハードルは決して低くありません。どちらの資金調達も困難な場合、個人的な借入で起業資金を補填するのもひとつ方法です。
9. 消費者金融から借入
消費者金融の審査は、企業に対する銀行の審査と比較すると通過しやすい傾向にあります。このことから、業歴がないため銀行の融資を受けられない起業家が消費者金融から借入するケースは少なくないようです。容易に資金調達ができる一方で、金利の高さや、契約内容によっては借入額の事業利用を制限している点に留意しなければなりません。
あなたの始めるビジネスで、できる限り短期間で返済できない場合には、利用しない方がいい手法ではあります。
10. 親族・知人から借入
起業家個人に信用があれば、親族や知人から借入を受けて起業資金を補填することも可能です。金融機関からの融資で行われるような審査は存在せず、あくまで個人間の信頼関係のみがベースとなります。借用書や契約書を作成し金銭トラブルの防止に努めるのが一般的ではありますが、問題が起きないということは少なく、起業家・起業経験者の間では「なるべく選ぶべきではない方法」として認識されています。
出資者/応援者から資金提供を受ける
11. エンジェル投資家
「エンジェル投資家」と呼ばれる、起業家に対する資金援助を個人で行っている投資家が存在します。銀行に比べると提供する資金は少額ですが、業歴の浅さから審査通過が難しい起業家をサポートしています。また、資金援助に加えてコミュニティーの拡大、精神的なバックアップを行うエンジェル投資家もいます。通常、エンジェル投資家は出資のリターンとして起業の株を保有し、利益に応じた配当を受け取ります。多くのエンジェル投資家はスタートアップの困難さを知っている元起業家です。世界を見渡すと、有名企業のCEOやセレブリティーがエンジェル投資家として名を連ねています。
12. クラウドファンディング
「クラウドファンディング」は、特定のプロジェクトに対して資金を必要としている事業者が、インターネット上で資金援助したい投資家に広く呼びかけ、資金を集める方法です。複数の投資家から出資を募り、利息や配当を還元する「貸付型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)」もあります。起業アイデアの魅力を投資家に伝えられれば、実績や信用にかかわらず資金を調達できる、大きな可能性を秘めた方法と言えるでしょう。
クラウドファンディングはその内容によって、購買型、寄付型、株式投資型など実態は単なる販売契約であるものもある一方、株式を購入してもらう形式のものもあります。あなたのビジネスに合うものを吟味して、選ぶことが必要です。
その他
上記でご紹介した方法にいずれにも属さない、一風変わった資金調達方法も存在します。
13. ビジネスコンテスト
企業の代表や大学教授などが審査員として、参加者のビジネスプランを評価するビジネスコンテスト・コンペティションが定期的に開催されています。単に識者や専門家からのアドバイスが受けられるだけでなく、入賞者には賞金が提供されるため、資金調達方法として活用することも可能です。コンテストの入賞実績を審査の判断基準とする金融機関も多く、他の資金調達がスムーズになる効果も期待できます。他の参加者との競争は厳しいものがありますが、入賞による宣伝効果も含めれば、その後の起業活動に与えるポジティブな影響は決して小さくありません。
14. 仮想通貨を通じて資金調達を行う(ICO)
ICOとは、Initial Coin Offeringの頭文字です。「クルドセール」や「プリセール」、「トークンセール」とも呼ばれ、株式を利用した従来の方法ではない資金調達手段として注目を集めています。
資金調達をしたい企業や事業プロジェクトが、独自の仮想通貨を発行または販売し、資金を調達することを指します。投資家には「コイン」や「トークン」と呼ばれるデジタル通貨(資産)を購入してもらいことになります。
上述したとおり、起業資金の調達には多くの方法が存在します。基本的にノーリスクな補助金・助成金には積極的に応募して損はないでしょう。銀行からの融資はスタンダードな方法であり起業時の資金調達方法として安定していますが、審査通過が困難であればエンジェル投資家やクラウドファンディングなど新しい方法を利用するのもおすすめです。個人的な借入は、他の方法での資金調達が難しい場合の最後の手段として考えるのがよいかもしれません。もしビジネスプランに自信があるなら、ビジネスコンテストでチャンスに賭けるのもひとつの方法です。
展開予定のビジネス、積み立てた自己資金の額、その他シチュエーションによって適切な資金調達方法は変わってきます。状況を鑑み、ベストな資金調達方法を選択してください。
また、ただ一つの方法だけで行くという考え方はせず、いくつかの手法を組み合わせてやってみることも検討の必要があります。