日本国内において、事業の開業から5年の生存率はなんと10〜15%と言われています。これはつまり、起業の失敗率がおよそ90%ということ。いかに国内でビジネスを興し、継続していくのが厳しいかを物語っている数値と言えるでしょう。
こうして事業に失敗した経営者は、いったいどのような道を辿るのでしょうか? また、再起の方法には何があるのでしょうか? 今回は、「事業の失敗と経営者の再起」にフォーカスを当てていきます。
事業が失敗する原因
事業が失敗するのには、いくつかの理由が考えられます。以下は代表的な要因です。
- 営業力(販売力)がない
どれだけすばらしい商品・サービスであっても、顧客に届けられなければ売上は立ちません。製品開発当初に予想していた見込み客へとリーチできなかったり、購入してもらえなかったりすれば、思ったような軌道には乗らないでしょう。こうした販路開発の遅れは、事業失敗の致命的な要因になり得ます。 - 過剰な支出や貸し倒れなどお金への見立ての甘さ
投資額の見誤りや、キャッシュフローの悪化が失敗を招いた例です。支出に見合うリターンがないまま事業を進めていけば、いつかは資金が尽きるもの。さらに、取引先の貸倒れが起これば現金が枯渇し、倒産を余儀なくされます。 - 知識や技術が足りていない
業界知識が足りていない状態で、見切り発車のような起業をしたケースです。自身としては十分な知識と高い技術力を持っていると思っていても、いざビジネスの世界に飛び込むと、足りないことだらけ、ということは少なくありません。必死に勉強をしてギャップが埋められればいいですが、起業時はなかなか時間が取れないもの。結局、競争力の面で他社に劣り、事業失敗の道を辿ります。
事業に失敗した場合起きること
自分の会社を畳んだ場合は、いくつものネガティブな影響が考えられます。
- 借金・自己破産のリスク
事業が失敗による負債は、額が大きいほど返済が困難となり、最悪の場合は自己破産もあり得ます。クレジットカードが作れないなど、社会的信用度は下落。保有財産も精算されます。 - 周囲からの反応の変化
ビジネス上の知人は、相手の事業が失敗すれば理由がなくなり、冷たい態度になります。また、「事業に失敗した」という烙印が押され、周囲から白い目で見られることも増えるでしょう。 - 家庭不和・離婚
一家の大黒柱が大きな借金を抱え込んだとなれば、将来への不安も募ります。家族との関係性もぎくしゃくとなり、場合によっては離婚などの可能性も考えられるでしょう。
失敗のその後の進路
事業に失敗した後の進路は、再就職か再起業のいずれかに分けられます。ただし、失敗がすべてマイナスとは限りません。起業経験があるからこその強みを生かし、再起を目指せることは人生において大きなプラス要素です。
再就職
事業に失敗した人物への評価は、会社によってマチマチというのが現実です。「事業を失敗させるくらいだから、能力がないのだろう」と捉える人事部もないとは言い切れません。一方で、起業マインドを前向きに捉えてくれる企業もあるでしょう。たとえばスタートして間もないベンチャー系の企業であれば、起業経験自体を評価してくれるケースもあります。
ただし、いずれの場合も「事業を経験したことで何を得たのか?」「なぜ事業が失敗したのか?」「次にどんなことを目指しているのか?」といった点が、自身のなかで明確になっていなければアピールにはならないでしょう。とくに、事業失敗の理由を冷静に判断できておらず、自己反省につなげられていない人物への評価は、どの企業であっても低いものです。再就職を目指す前に、一度自分自身を振り返ることが求められます。
なお、ある程度の年数事業を継続してからの失敗であれば、経営者自身も年齢を重ねているはず。加えて、それまでのビジネスとまったく別のことに挑戦しようとしても、能力面の不足が否めない可能性もあるでしょう。大切なのは、自身の経験が生かせる再就職先をできるだけ早く探し出し、応募につなげることです。
再起業
国民生活金融公庫総合研究所による「2度目の開業に関するアンケート, 2001」によると、2度目の開業者(および、失敗経験者)は新規開業者に比べて黒字をあげている割合が高く、収支状況が安定していると言えます。この理由のひとつとして、目標月収を低めに設定していることが挙げられています。
目標月収が低いことには、事業規模の大きさが関係しています。同アンケートのデータによれば、新規事業者に比べて2度目の開業者は、比較的小さな規模で再起業を行うケースが多いようです。この理由は、はじめの起業によって担保を失ったことや、金融機関からの信用を失った可能性が考えられます。一方で、経営者自身が廃業経験を反省し、慎重な経営と少ない借入で事業をはじめている点もポイントと言えそうです。
なお、同アンケートでは、2度目の開業者が廃業経験をマイナスと感じている割合は少ない、というポジティブな考察も記載されていました。廃業経験がプラスに働いていることがよく分かります。実際に、一度一般企業へ就職をしたにもかかわらず、起業への想いが抑えきれなくなり、再起業に向かうという方もいるようです。失敗を糧として努力をしようという熱意が伝わってきます。
再起業で成功できる人の特徴
再起業で成功を掴む人には、いくつかの特徴があります。マインドの部分に焦点をあてて、その理由を探っていきましょう。
- 過去の失敗を生かすマインド
失敗には要因があります。これを明確にすることが、再起に向けた第一歩であることは間違いありません。現実から目を背けず、結果に対して真摯に向き合う人であれば、次のチャンスを掴めるはずです。 - 諦めない気持ちを持ち続ける
挫折は人の心をくじきます。一方、何度失敗したとしても立ち上がる気持ちがある人は、挫折によって強さを手に入れます。諦めない気持ちを持ち続けられる人にこそ、成功は訪れると言えるでしょう。 - 他者のアドバスを聞く謙虚な姿勢
事業をしていると、多くの人が善意で助言をくれるものです。しかし、社外はもちろん、社内からの提言すら聞き入れられない経営者はまさに“お山の大将”。大切なことは、謙虚な姿勢で、素直に人の意見を聞ける心です。 - 「自分は起業家として生きていく」という意思
一度起業を経験すると、サラリーマンとしての自分に物足りなさを感じる方も多いようです。自らが生み出した価値や結果が報酬に反映されることは大きなやりがい。厳しい実力主義のビジネスシーンを闊歩することに魅力を感じるからこそ、二度目の起業でも高いモチベーションが維持できるのです。
事業に失敗しても再チャレンジできる制度がある
溢れる起業マインドがあったとしても、資金が集まらなければ再起業は臨めません。しかし、はじめの事業の失敗により、金融機関からの借入は困難です。この際に活用したいのが、国が提供している再チャレンジのための制度です。
経営者保証
経営者保証とは、中小企業により事業展開や早期の事業再生、スムーズな事業承継を応援する精度です。企業が金融機関から借入を行う際、経営者は個人保証を負うのが一般的です。しかし、この仕組みが企業の活力を阻害する可能性があるとして、政府から「経営者保証に関するガイドライン」が平成25年12月に発表、翌2月に運用が開始されました。
内容は、中小企業が「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」「財務基盤の強化」「経営の透明性」を維持できていれば、経営者保証なしでも融資が受けられるというもの。倒産時は、経営者には最大460万円の現預金が残り、信用情報の保持、第2会社方式による再生も可能。また、自宅の処分を回避できるケースもあります。
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
廃業経験のある経営者の再起業を支援する制度です。新規開業おおむね7年の廃業経験のある個人、もしくは法人経営者で、やむを得ない理由・事情で廃業をした方が対象。なお、廃業時の負債が新規事業に影響を与えない程度まで整理される見込みも条件です。
用途は新規事業、もしくは事業開始後に必要となる設備資金および運転資金。融資限度額は7,200万円以内(うち運転資金4,800万円)です。設備投資については返済期間が20年以内、運転資金は7年以内とされています。
再起業のための融資制度と言っても差し支えない本制度は、融資が下りにくい元経営者に最適です。より詳しい内容は、日本政策金融公庫の各支店への問い合わせが案内されています。
まとめ
事業の失敗は経営者に大きな損害を与えます。しかし、その後の人生がすべて薄暗いものになるわけではありません。二度目の起業で成功を収める人も少なくないことを見ると、はじめての廃業は大きな成長のチャンスとも言えるでしょう。
なぜ事業が失敗に終わったかを冷静に受け止め、振り返り、改善点を明確にできる人であれば、再就職であっても再起業であっても再起が可能です。なかでも、再起業を目指す人の場合は、挫折に負けないマインドや素直な心も大切と言えるでしょう。そして何より、新たな気持ちで一歩を踏み出す強い意思が求められます。
ネガティブになるのではなく、前向きな気持ちで事業失敗を捉えることが、2度目の起業における成功のカギです。
※参照元URL
●2度目の開業に関するアンケート, 2001:https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2007/02-03/pdf/041-053.pdf