起業の形態として代表的な個人事業主と法人。節税効果や信用の大きさがメリットとして知られている法人化ですが、その一方で大きな設立コストや設立後も発生する費用やランニングコストについて留意しなければなりません。また、法人には個人事業主にはない手続きもあります。こちらでは、個人で法人を設立後に発生する費用やランニングコストについてお話しします。
法人設立時にかかる初期費用
まず、個人事業主でも法人へと事業移行することは可能です。この事業移行を法人化(法人成り)と呼びます。法人化の形態には「株式会社」「合同会社」「NPO法人」「一般社団法人」などがありますが、通常の事業を行う場合、日本では株式会社と合同会社が主流です。
株式会社と合同会社では法人設立時に以下のような初期費用が発生します。
株式会社 | 合同会社 | |
定款の印紙代 | 40,000円 | 40,000円 |
定款の認証手数料 | 50,000円 | 不要 |
定款の謄本手数料 | 2,000円程度(定款のページ数×250円) | 2,000円程度(定款のページ数×250円) |
登録免許税 | 資本金の0.7%(150,000円が下限) | 資本金の0.7%(60,000円が下限) |
このうち、定款の印紙代40,000円は電子定款では発生しません。
行政書士や司法書士に依頼した場合には、その報酬は別途必要です。
法人設立後にかかる費用
上述したのはあくまで法人設立時に発生する初期費用です。法人では設立後にも個人の場合にはかからない特定の費用があります。また、費用発生の条件が個人とは異なる場合もあるため注意が必要です。法人設立後にかかる費用の代表例をご紹介します。
税金
法人化すると、毎年の法人住民税が発生します。法人住民税は法人税割と均等割に分けられ、それぞれ税額が異なるため注意が必要です。資本金が1,000万円以下、従業者の数が50人以下の場合、法人住民税として7万円が発生します。
また、地域によっては法人住民税の額が異なる場合があります。例として、横浜市では「みどり税」の4,500円が発生するため、法人住民税総計で7万4,500円の支払いが必要です。自治体ごとの法人住民税を確認しておかなければなりません。
なお、法人住民税は経営状態にかかわらず必ず発生します。経営状態によって税額が変わることはありません。支払期限は「事業年度終了日の翌日から2カ月以内」です。
社会保険料の負担
個人事業主の場合、従業員4人までであれば社会保険料強制適用の対象外となり、社会保険に加入する必要はありません。この場合、発生するのは国民健康保険と国民年金のみです。従業員が加入する国民健康保険、国民年金に関しては、会社が保険料を負担する必要はありません。
対して法人化すると規模にかかわらず、社会保険の加入が義務になります。代表ひとりしかいない場合も例外ではありません。強制適用の条件を満たしているのにも関わらう社会保険に加入しないのは違法行為です。
法人の場合、被保険者である従業員が保険料の半額を、会社が残りの半額を負担します。保険料は従業員の給与額によって決まります。社会保険の加入によって会社側の負担が増えることは事実です。
各種変更手続き費用
法人設立後、登記事項を変更する際には申請が必要です。申請には、登録免許税という費用がかかります。もちろん変更しない場合費用負担はありませんが、設立後に登記事項の変更に迫られるケースは少なくありません。
以下のような変更はすべて登記事項を変更する必要があるため、登録免許税がかかります。
●会社名を変更
●登録住所を変更
●役員の変更・増減
●資本金の増減
●代表社員を変更
登録免許税額は1万~6万円であり、変更項目によって異なります。変更の都度発生する点にも注意が必要です。無駄な費用負担を抑えるためには、将来の変更がないように登記事項を検討すべきといえます。
さらに、変更の申請を司法書士などに依頼する場合はそのための報酬も発生します。自分で申請することで、発生費用を抑えることも可能です。
会社を畳むときにも費用が発生する
個人事業主と法人では事業をやめて廃業する際の手続きや費用も異なります。個人事業主の場合、廃業から1カ月以内に税務署へ廃業届を提出するだけで手続きは完了です。この際の費用などは一切かかりません。
一方、法人の場合は法務局での煩雑な手続きが求められます。記入・提出する書類も、個人事業主のように少なくはありません。また、それぞれの手続きに費用が派生します。
法人の廃業手続きに発生する費用は以下のようなものです。
- 官報公告:33,000円
- 解散登記:30,000円
- 清算人の選任登記:9,000円
- 清算結了の登記:2,000円
こうした廃業手続きの手間は費用負担の大きさは、法人化のデメリットのひとつだと考えられています。
法人設立後にかかるランニングコスト
法人設立後に発生するランニングコストの例をご紹介します。個人事業主の場合もランニングコストは発生しますが、法人化に伴い新たに発生するコストもあるため注意が必要です。
- オフィスの家賃
個人事業主の場合は自宅を事業所にするケースも一般的です。一方、法人の規模によっては別途オフィスが求められます。
- 光熱費等
オフィスには家賃だけではなく光熱費も発生します。インターネットや電話を業務で使用する場合、通信費も考慮する必要があります。
- 在庫管理
仕入れを伴う事業を行う場合、在庫管理のコストがかかります。商品の規模によってはオフィスとは別に倉庫が必要です。
- 宣伝費
会社の認知を拡大するためには、コストをかけて宣伝を実施する必要があります。
- 給与・福利厚生費
従業員を雇用する場合は、給与がコストとして発生します。社会保険の加入が前提となるため、厚生年金など福利厚生費も負担しなければなりません。
- 行政書士・税理士の顧問報酬
行政との各種手続きは自分で行うこともできますが、法人の手続きは個人事業主の手続きよりも煩雑です。そのため、報酬をコストとして支払い行政書士や税理士などの専門家に依頼するのが一般的となっています。
法人設立後にかかる費用・ランニングコストを削減する方法
事業を安定させるためには、費用やランニングコストを抑えることが重要です。とりわけ、法人化した直後はなるべくはやく経営を軌道にのせるためのコストダウンを意識する必要があるでしょう。以下では具体的なコスト削減方法をご紹介します。
家賃や光熱費を削減する
自宅を法人登記すると、家賃や光熱費、通信費のうち事業用として認められる金額を経費として申請できます。通勤の必要もなくなるため、コスト対策として自宅を登記するのは有効です。
一方で、自宅を登記する場合はセキュリティ上の懸念や、登記で住所を公開しなければならないといった問題があります。自宅を登記する以外で家賃や光熱費を削減する対策としては、シェアオフィスやコワーキングスペースを利用するのがおすすめです。一般的なシェアオフィス、コワーキングスペースは賃貸オフィスと比較して安価で提供されています。
会計ツールを導入し申告まで自分で行う
会計業務や確定申告の手間は会計事務所や税理士に依頼することで回避できます。ただし、報酬として発生するコストは法人にとって大きな負担です。帳簿づけや確定申告の手続きは複雑ですが、会計ツールを利用すれば効率化できます。ツールを利用して申告まで自分で行いコストダウンしている経営者の方は少なくありません。経理を自らが行うことで、直近の経営状況をタイムリーに反映した方針が立てられるというメリットもあります。
法人税の申告は所得税のそれとはだいぶ違うので、一般的にはハードルがたかいといえるでしょう。資金的にはコスト削減でも時間的なコストを払うことが必要です。
宣伝費
宣伝・広告はすべて外注するとコストが増大します。可能な限り自分で取り組むのがおすすめです。
例として、ホームページは無料のサービスで自作できます。少し勉強が必要ですが、工夫しだいでは外注したホームページと遜色ないクオリティを実現可能です。内容変更が必要な際も自分で即座に編集できます。
名刺なども現在はインターネットのサービスで安価に作成可能です。さまざまなサービスが企業の宣伝用に提供されているため、コストダウンにつながるものがないか調べてみましょう。
法人化するメリット・デメリット
法人化にはメリット・デメリットの双方があります。事業の内容や規模、タイミングによっては、法人化が必ずしも正しい選択とはいえません。メリットとデメリットの双方を知ったうえで判断する必要があります。
法人設立のメリット
法人設立のメリットとして以下のようなものが挙げられます。特に信用力が高まり融資が受けやすくなる利点や節税面の恩恵から法人化を選ぶケースが多いようです。
- 対外的信用力の増大
- 節税面
- 金融機関からの資金調達がしやすい
- 決算日を自由に設定
- 個人資産の差し押さえがない
法人設立のデメリット
メリットの一方でランニングコストの増大や個人の場合にはない手続きの発生などはデメリットです。特にランニングコストの問題から、法人化の前には資金が十分にあるか検討するべきだと考えられています。また、個人事業主のように「事業で得たお金=個人で自由にできるお金」ではないことも注意が必要です。
- 初期費用や設立後も費用・ランニングコストがかかる
- 事務作業の増加
- 会社のお金を自由に使えない
***
個人でも法人化することは問題なく可能です。ただし、すべての事業者にとって法人化がベストな起業とは限りません。節税のメリットから法人化を選択する方もいますが、多くの費用やランニングコストが発生します。今回ご紹介したメリット・デメリットを検討し、個人事業主・法人のどちらで起業すべきか慎重に決めてください。